ジャニー喜多川氏の性加害問題とマスコミの忖度 欧米コンプレックスはどこまで?

タレント

ジャニー喜多川氏の性加害(セクハラ)事件について

 この事件はジャニーズ事務所の社長だった故ジャニー喜多川氏が、長年にわたって所属タレントの少年たちに性的虐待を行っていたという問題を、イギリスのBBC放送が報じたことに端を発します。

BBCは、同局が制作したドキュメンタリーで「複数の被害者がインタビューに応じたことがきっかけとなり、あるJ―POPタレントが名乗り出て自分の被害体験を明かした」としてジャニー喜多川氏の性加害問題を告発した元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏について触れました。

 ジャニーズ事務所はオカモト氏の会見の後、「ガバナンス体制の強化」などに取り組んでいるとする声明を発表しましたが、オカモト氏の訴えには触れず、ジャニー喜多川氏への言及もありませんでした。

オカモト氏は、ジャニーズ事務所に対して法的措置を取ることは考えていないとし、その代わりに自らの話をすることで、多くの被害者が声を上げられるようになることを願っていると述べました。

実際にはものすごい数の被害者がいるとし、「僕の願いだけど、(被害に遭った)全員が出てきた方がいい」と主張しています。その上で、「ジャニーさんが当時15歳の僕やその他のジュニアに対して性的行為を行ったことは悪いことだと思っている」と話しました。

 その後オカモト氏は、先月のBBCドキュメンタリーの公開を受け、証言する気持ちを固めたと説明しています。

まず5月5日に週刊文春に自らの訴えを詳しく述べ、5月12日、東京の日本外国特派員協会に招待されるかたちで記者会見に臨みました。

会見の席上で「日本のメディアではおそらく報じないだろう。BBCのように外国のメディアならば取り上げてくれるのではと言われ、この記者会見を受けることにしました」とオカモト氏は話しました。

「ジャニー氏による少年への虐待疑惑が明るみに出てから数十年後だった」といいます。証言によると、オカモト氏は東京にあった喜多川氏の自宅マンションで15~20回ほど虐待被害に遭ったといいます。

虐待を我慢しなければ成功しないとジャニー喜多川氏に明確に言われたことはありませんが、「ジャニーさんの一言ですべてが決まる」と当時の状況を振り返ました。またオカモト氏は、ジャニー喜多川氏の自宅に泊まった少年を少なくとも100人知っており、その全員が虐待を受けていたと思うと述べました。

NHKの報道はどうだったのか?

 NHKは2023年5月17日のクローズアップ現代でこの事件を取り上げました。

キャスターの桑子アナは番組の冒頭で、「以前(2003年)にも東京高裁で一部ジャニー喜多川氏の性的虐待が認定されていたにもかかわらず、それをマスコミがほとんど報道しなかったのは”怠慢”と言われても仕方がない」という旨の発言をしましたが、この発言に違和感を感じた人は少なくないでしょう。

「怠慢」とは「やるべきことをやらなかった」という意味ですが、これはNHKがジャニーズ事務所(ひいてはジャニー喜多川氏)に忖度した結果、意図して報道を控えたのであろうことは誰の目にも明らかです。

つまりNHKは(報道しないことで)意図的に視聴者を騙したと言われても仕方のないことです。民放各社はいまだにこの事件にもほとんど触れようとしませんからいまだに騙し続けていると言われても仕方のないことです。マスコミは事件を黙って知らんふりしていたことをまず視聴者に謝罪すべきでしょう。

 生前、2002〜2003年の東京地裁及び東京高裁での裁判の席でジャニー喜多川氏はすべての告発を否定し、起訴されることはありませんでした。

BBCは先月のドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(The Secret Scandal of J-Pop)で、被害に遭ったとする複数の人々の訴えを詳しく伝えました。その中で被害者たちは、ジャニー喜多川氏の意向を拒めば、自らのキャリアが損なわれることを恐れたと語っています。

そして東京高裁では2003年に、少年たちが受けた性的虐待について「真実であることの証明があった」と認定し、その後、最高裁判所がジャニーズ事務所側の上告を退けたために判決が決定しました。

ジャニー喜多川氏は日本の音楽業界で最も影響力がある1人とみなされていましたし、4年前に87歳で死去した際には、Jポップアイドル文化の立役者として大きな遺産を残したと称賛されました。

しかし、ジャニー喜多川氏が10代のアーティストを手なずけ、性的虐待をしていたという疑惑は1999年から浮上していました。

「週刊文春」は同年、元アイドル6人の証言を記事にしています。ですが当時、日本メディアのほとんどはこの疑惑を取り上げませんでした。それがその後長年にわたって、業界による隠蔽(いんぺい)だとの非難を呼んできたのです。

 英紙ガーディアンは、ジャニーズ事務所・現社長の藤島ジュリー景子氏が公式動画で謝罪したと伝え、「日本のポップアーティストの一連の成功の原動力であるジャニーズ事務所は、(カウアン氏)が少なくとも15回性的暴行を受けたと主張したことを受けて、この疑惑について直接コメントするよう迫られていた」として謝罪の背景を説明しました。

また米ブルームバーグ・ニュースはジャニー喜多川氏について、「このボーイズバンドの大御所は日本のポップアイドル業界を構築し、光GENJI、SMAP、嵐、Sexy Zoneを含む安定した人気のグループを輩出。世界第2位のレコード音楽市場を盛り立てた」と解説しています。

 このように20年近く前からジャニー喜多川氏の性的虐待が指摘され、東京高裁においてもその事実が一部認定されていたにもかかわらず、NHKをはじめとした日本のメディアは見て見ぬふりをしてきたわけです。

その裏にはメディアのジャニーズ事務所への忖度があったことは誰の目にも明らかなことです。事実、2019年にはジャニーズ事務所を退所した元SMAPの3人のメンバーをTVに出演させないようにテレビ局に対して圧力をかけたとされる件で、公正取引委員会はそんなことをした場合には独占禁止法に触れる恐れがありますよ、という異例の注意処分を出しています。

 なぜこれが独占禁止法に触れる恐れがあるのかといえば「優越的地位の濫用」のおそれがあるからです。

例えば「脱退したメンバーを番組に出演させたら、もうあなたの局にはうちの所属タレントを出しませんよ」と事務所が圧力をかけたとすると、事務所を独立した芸能人は自由な活動ができなくなります。

これはマーケットパワーの強い事務所が、新規参入の事務所、あるいは個人の活動を制限する行為です。つまり、市場において優越的地位にあるものが、自由な競争を阻害する行為となるわけです。独禁法は独占することを禁じる、すなわち市場における公正で自由な競争を守るための法律ですから、こうした圧力行為があるとすれば処分の対象になるというわけです。

芸能界におけるジャニーズ事務所の存在とは?

 2019年の吉本興業に関する「闇営業」問題では、宮迫博之と田村亮の二人は、犯罪行為をしていたわけではないにもかかわらず所属事務所から謹慎処分とされ、長期間にわたって芸能活動を制限されていましたが、悪質さでいうなら、今回報道されたジャニー喜多川氏による「淫行」は、圧倒的弱者である未成年者に対して行われた性的暴行という重大な違法行為であり、宮迫や田村亮がやったことの比ではありません。

こんな犯罪行為が事実であれば、ジャニー喜多川は本来ならこの時点で芸能界から追放されていたとしてもおかしくなかったはずです。

にも関わらずどうしてジャニー喜多川氏は芸能界から追放されることもなく、死亡するまでジャニーズ事務所の社長として君臨し続けることができたのでしょうか。

 そのような事態に至らなかったのは、巨大な力を持つ大手の芸能プロダクションに対し、テレビ局を初めとするマスメディアが忖度して報道を控えてきたからです。逆らえば自局の番組に人気タレントを出演させてもらえなくなるため、忖度を繰り返していたわけです。

それが報道機関でもあるはずのメディアが、ジャニー喜多川氏のような非道な犯罪行為を続けていた人物の反社会的行為を隠蔽し、存続させてきたわけです。

仮に2003年に東京高裁でこの判決が出されたとき、ジャニー喜多川氏とジャニーズ事務所の問題行動がもっと広く報道され、ジャニー喜多川氏が追放されていたとしたら、冒頭で触れた元SMAPの3人に対するメディアからの追放といった問題も生じなかったでしょう。

ジャニー喜多川氏が死亡したとはいえ、決してジャニーズ事務所の問題隠蔽体質が改善されたものではありません。未成年者が犠牲になる悲劇が今後も繰り返される危険はいくらでもあります。

決して、ジャニーズ事務所に所属しているタレントたちに非があるわけではありませんが、芸能事務所の横暴に対する批判は、タブーを作ることなく毅然として行っていく必要があります。

しかし今の日本のメディアの体質を思うと、事態が見える化されるにはまだまだ長い時間がかかりそうです。そして私たちは、マスメディアの報道だからといってくれぐれもそのまま真に受けず、その裏で動いている巨悪についても考えを至らせることが大切なのです。

まとめ

 ジャニーズ事務所に所属する未成年者の少年に対して、ジャニー喜多川氏がその権力を背景に「セクハラ行為」すなわち淫行行為を働いていたという話は、週刊誌などでまれに取り上げられることがあったものの、大手新聞社や放送局などが取り上げて報道することはほとんどありませんでしたし、少なくとも私はそのような報道を見たことがありません。

確かに、大きな仕事をした人物の訃報においてその負の側面をあえて取り上げるべきではないとの考え方もあるでしょう。

しかし、これが事実だとすればそれは明らかに未成年者に対する違法行為であり、各地方自治体において制定されている「青少年保護育成条例」が定める「淫行」に該当する犯罪行為です。

メディアはあえてこうした重大な問題を黙殺する方が大きな問題なのではないでしょうか? また外部(今回は英・BBC)から指摘された時だけ、急に大問題のように扱おうとする欧米コンプレックスはいつになっても治らないのでしょうか?

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